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​●退職から漠然と考え始めたこと

2020年。

年が明けて間もなく、新型コロナウィルスが話題となった。

はじめのうちは、クルーズ船がどうのこうのと、自分達にはあまり関係のない

ニュースだと思っていた。

だが、時間がたつにつれて感染者は市中にも現れはじめ その数は日増しに

増えていった。

そして、4月7日ついに史上初の緊急事態宣言。

外出自粛の要請を受けて、街から人が消えた。

 

当時 多摩地区に数店舗居酒屋店をかまえる会社に勤務していた私は、緊急事態

宣言解除後も客足が戻らない実態を身をもって感じていた。

店頭販売、テイクアウトなど会社や従業員が工夫を凝らして 少しでも売り上げを

伸ばすための努力をしていたが、店を維持していくにはかなり厳しい売り上げしか

上げられなかった。

このままでは、会社は苦渋の決断をせざるを得ないだろう。規模縮小、従業員削減。。

現場にいた私は、いつかその日が来るであろうことを実感していた。

『この歳で再就職か。。かなり厳しいな。。』

昭和41年生まれ。54歳。

飲食業に就いてから10年弱。それまでは20年以上電気業界で働いていた。

飲食業は、高校3年間とそのあと専門学校で電気工事士の資格を取る間の1年間

あわせて4年間洋食店でアルバイトをしていた。

社会人となり20年余り電気業界に就いていたが、40歳を過ぎた頃、ふと

また飲食業で仕事をしたいと思いはじめた。

アルバイトの頃を思い出し、自分が作った料理をお客様に食べていただき、

帰り際、「ご馳走様でした。」と言っていただいたあの喜びをもう一度実感したい。

そんな思いが強くなり、思い切って転職。焼き肉店で1年余り働き、でも もう少し

いろんな種類の料理がしたいと思い再度転職。そして、今の会社に入社。

串焼き場、調理場と 諸先輩方にたくさんのことを教わりながら、充実した年月だった。

 

だが、今目の前に起こっている現実は そんな自己陶酔に浸ってはいられない状況だった。

 

『もし、会社から辞めてくれって言われたらどうしよう?次、何をすればいいんだろう?

何がしたい?やりたいって思わなければ絶対に長続きしない。でも、自分がやりたいことって

何だ?』

・・・

『あ、そうだ、ある!やりたいことある!

電気の世界にいた時にずっと思ってたこと。

昔、子供の頃に憧れていた町の電気屋さん。

ウチのテレビが壊れたとき、テレビの裏蓋を開けて、お医者さんのように

見たことのない道具や材料を使って魔法のように直してくれたり、

わけが分からずブレーカーが落ちて困ったときもすぐに来てくれたり、

とにかく、電気のことで困ったときは“〇〇デンキ”さんに来てもらって

直してもらってたな。

そういえば、あんな電気屋さんって最近少なくなったような気がする…

やってみたいような気もするけどな。。』

 

長年家電業界にいたこともあったが、あの頃の家電店は商品を売ることに必死だった。

修理の依頼は販売のチャンス!といわんばかりに、とにかく商品を売って

売り上げを上げることだけに執着していた。

もちろん、自分の中には疑問を持つ思いはあったが 競合店に負けまいと、それだけを

考えるようになっていた。

 

『町の電気屋さんか。。

電気のことで困っている人を、自分の持っている技術で助けてあげられたらいいな。。』

漠然と、そんなことを考えるようになっていた。

​つづく

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