
●開業を決意
2020年12月28日、
この日がこの年の御用納めということもあって、
最後にもう一度ハローワークに行くことにした。
『今日は、はじめから開業と再就職手当について聞こう。』
そう決めていた。
『頭でいろいろと考えていても仕方がない。分からないことは聞くに限る。
再就職手当のことはしらべて分かった。問題は、⑤番のクリアー。
1年以上継続して事業が続くことの証明だ。それにはどのようなものが
必要なのか教えてもらおう。』
受付で、
「個人事業の開業と再就職手当について伺いたいのですが。」
「わかりました。それでは〇〇番の窓口に行ってください。」
窓口へ行き番号札を取って待つ。
「髙橋さん、髙橋義継さん。」
「はい。」
少々緊張しながら職員さんのもとへ。
「再就職手当についてのご質問ということですが。どのようなことですか?」
「まず確認なんですが、再就職手当は審査に通ったら全額が一度に振り込まれる
というのは間違いないですか?」
「はい、間違いありません。必要な書類を提出していただいた後に審査に入り、
審査に通ったら就業促進手当支給決定通知書を郵送させていただきます。
その通知書に支給決定金額が書いてあって、その金額が支給決定日の翌日から
だいたい一週間以内に指定の口座に振り込まれます。」
「わかりました。自分で仕事をはじめようと考えているのですが、その場合
受給要件の中の “1年を超えて勤務することが確実であること。” というのは
どうやって証明すればいいんでしょう?」
「どのようなお仕事を始められるのですか?」
「店舗や商品を持たずに、小規模電気工事や家電製品の修理、 メンテナンス等を
やろうと思っています。」
「そうですか。具体的に取り引きをされる会社等はありますか?」
この質問は想定の範囲内だった。
「はい、そのことについても質問なんですが、自分が今まで勤めていた会社と
自分が起こす事業との間での取り引きでもかまいませんか?」
「髙橋さんが個人で開業されて、以前勤めておられた会社とは全くの別もので
資本や資金面でも全く関わりがないものであれば問題はありません。」
「私個人の起業に関して、勤めていた会社は一切関わっていないので大丈夫です。」
「わかりました。そうしましたら、そちらの会社と業務委託の契約などを結ぶことは可能ですか?」
業務委託の契約。なるほど、そういう方法があったか。
「確認してみないと分かりませんが、業務委託契約書があれば良いということですか?」
「その業務委託契約書に契約期間が1年以上続くことを明記してください。
その内容が、高橋さんの事業が1年以上続く証明となりますので。」
納得のガッテンだった。
「ちなみに、こちらは今日で今年は終わりですよね?」
「そうなります。年明けは4日からになります。他に何かご質問などはありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。年明けにまたお伺いします。」
じつは、会社から雇用契約の解除 つまり解雇の話しを聞かされたときに、
こんなやりとりがあった。
「こんな質問は失礼かもしれないけれど、ウチを辞めた後に何をするとか
決めていることはありますか?」
「まだ本当に漠然となんですが、自分で仕事をしようかとも考えています。」
「どんな仕事か聞いてもいいですか?」
「一般家庭を対象とした電気工事や家電修理、メンテナンスなんかができればと。」
「そういえば、髙橋さんは電気工事士の免許を持ってるんでしたね。」
「はい、第二種電気工事士の免許を持ってます。」
「そうか…。そしたら、これはまだ決定事項ではなく本部で話し合ってからのことになりますが、
もし髙橋さんがその仕事を始めたとして、ウチから仕事を依頼した場合に受けてもらうことは
可能ですか?」
会社には自社社員の中に店舗メンテナンスを担っている者がいるのだが、
今度の人員削減でそのスタッフは現場(店舗スタッフ)に異動になるらしく、
店舗の電気等に関する修理、工事等を今後どうするかを考えているらしかった。
「もちろんです。自分がお役に立てるようであれば、いつでも言ってください。」
・・・
『会社に相談してみよう。 …待てよ、その前に 業務委託契約書を作らなければ。」
社会人になってから今に至るまで、業務委託契約書を自分で作成したことなど一度もない。
とりあえず、まずは雛形的な文章を探そう。それを基本として、
会社と自分の事業との間にふさわしいように内容を修正しよう。
数時間かけてなんとか契約書は完成。
会社に連絡をして事情を話し、書類の内容を会社に送信。
内容を確認していただいたうえで、快く契約に応じてくれた。
12月31日、勤務していた会社と電救社との間で業務委託契約が成立した。
再就職手当に関しても、詳しく調べた。
離職給付金と同じように毎28日ごとに70%に減額される金額が振り込まれると勘違いしていたが、
調べた結果このような内容であった。
基本手当日額 × 所定給付日数の残日数 × 70% = 再就職手当支給金額
これが、一括で振り込まれる。小分けではない。
離職給付金と再就職手当、この両者でとことん悩んだが、最終的には
独立・開業の意思が強かった。
自分の持っている技術や経験が困っている人の助けになり、それが自分自身の
糧となるように頑張ろう。その思いはもう揺るぎなかった。
年が明けて、2021年1月4日。さっそく活動を開始した。
まずは税務署へ行き、
個人事業の開業・廃業等届出書と所得税の青色申告承認申請書を提出。
これは あっさりと受理され、各書類の控えにも受領印をもらった。
ここに、晴れて 「電救社(DEN-Q)」 が開業となった。
次にハローワークに行き、
再就職手当支給申請書
開業届(控)
所得税の青色申告承認申請書(控)
業務委託契約書
を提出。
偶然にもこのときの職員さんは、12月28日の職員さんと同じ人だった。
なんだかちょっと安心した。
「先日お伺いしたものですが。」
「はい、覚えていますよ。書類ご用意されたのですね。拝見します。」
「あの… 業務委託契約書なんですが、二部作って一部は会社に、もう一部を
今日そのまま持ってきちゃったんですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。こちらでコピーを取らせていただきますので。
少々お待ちくださいね。」
職員さんは、一通り書類を確認した後にコピーをとって戻ってきた。
「業務委託契約書の方も確認させていただきましたが、事業継続の証明になる
内容が記入されていましたね。
それでは、お預かりした書類をもとに審査に入らせていただきます。
審査にはだいたい2週間ほどかかりますのでご承知おきください。
あと、業務委託契約書の契約期間が令和3年1月1日からとなっていましたので、
本日1月4日に税務署に行かれたようですが、開業は1月1日からということになります。
細かいですが…。」
「はい…。」
「髙橋さんは離職給付金の初回認定が済んでいて、初回の給付金が
基本手当日額の13日分で振り込まれていますね。」
「はい。」
「その翌日から数えて12月31日までが16日間となり、基本手当日額の16日分が、
まず髙橋さんの口座に振り込まれます。ここまでが離職給付金の給付となります。
よろしいですか?」
「はい。」
「1月1日以降の所定給付日数の残りの日数が、髙橋さんの場合は三分の二以上
残っていますので、再就職手当の掛け率は70%となります。よろしいですか?」
「はい。」
つまり、
基本手当日額 × 211日(240-13-16) ×70% = 再就職手当支給金額
ということだ。
「それでは、受付はこれで終わりとなります。何かご質問はありますか?」
「えっと、この申請をもって自分はもうここへは来なくてよいということで
よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。審査結果が届くまでお待ちください。ご苦労様でした。」
「ありがとうございました。失礼します。」
さらにこの日は、市の都税事務所へ。
事業開始等申込書を提出。
書類、書類、書類…。 なかなかの数だった。
年末年始、
新型コロナウィルス感染の第3波が未だ収まらず、
不要不急の外出を自粛するようにと、国や都が要請。
言うことを聞いていたといえば聞こえが良いが、未経験の書類作成作業に
完全に時間を費やしてしまったといえばそれまでだった。
それからは、
再就職手当の支給審査結果を、内心ひやひや状態で待ち続けながら、
工具類の確認や、広告等の準備を進めていった。
ここからは、ひたすらに頑張っていこう!
新しい年を迎えて、改めてそう決心した。
1月中旬、
無事、就業促進手当支給決定通知書が郵送されてきた。
内容を確認すると、支給決定日は書類が届く二日前になっていた。
そして書類が届いたその日に、再就職手当が指定口座に振り込まれた。
- 完 -